里子犬を3日間しからないと決めたわけ
わが家に里子犬ポンテ、通称ポンちゃんを迎えると覚悟した時に決めたことがある。それは3日間はよほどのことがない限り叱らない、ということ。
本当であれば、すぐにでも躾を始めたほうがいいに決まってる。これまでの4匹はそうしてきたし、その成果はかなり大きいと十分に分かっている。けれどこのポンちゃんに至っては叱らないでいたかった。せめて3日間だけは――。
その理由はポンちゃんの元飼い主さんから聞いた、[人に飼われていたけれど、人と共存していなかったポンちゃん]のちょっぴりさみしい生後11か月間にある。
元の飼い主さん家族にも懐かず、馴染めず、自分の父犬・母犬にさえ吠えられ唸られ威嚇されて育った彼は、人も犬も音も匂いも…あらゆるものを警戒し怖がって生きてきた。
そんな彼が生まれて初めて、人と共存する。3匹の老犬の輪の中で暮らす。「ここでは誰も君を怖がらせないよ。ここは絶対に安心な場所だよ。ここは君がいていい場所なんだよ」とまず知ってもらいたかった。
父犬ハム君も双子のブルーとぴーちゃんも、ポンちゃんを怖がらせることはしなかった。事前にこんこんと言って聞かせた甲斐がある(?)。つかず離れず様子を見ながら、“小さな白黒”の好きなようにさせている。
この時はただの予感でしかなかったけれど、「ポンちゃんは本当は賢い」。だから3日明けてからの躾開始でも大丈夫――のはず。た、たのんだよポン太郎っ!!!
新入犬、先住犬と初めての散歩
散歩の楽しさをも知らないポンちゃんの、散歩の出来なさ加減をしるべくひとまずハム君の散歩に同伴させてみることにした。
表情こそ「ぷいい」とツッパっているけれど、行き交う人たちから「すっごい震えてる(笑)」と笑われるほど完全に腰が引けて下半身がぶるぶるしていた。
意地でも動きません! 天変地異が起きたって此処を動くもんですか! という強い意志が見える。震えてるけど。
石と化した彼を肩から提げていたスリングに入れて、走りたくてうずうずしているハム君の散歩を開始した。ポンちゃんはスリングから落ちそうなほど身を乗り出して街を眺め、人々を見つめ、風の匂いに鼻を揺らし、雑踏に耳をそばだてている。
早歩きするハム君の後頭部を目で追って、地面に降りたそうに首を伸ばしては引っ込める。とくに
“音に敏感” なのだなと気がついた。子どもたちは学校に、社会人はお勤めに出ている時間とはいえ都会の昼過ぎは静けさには程遠い。
音に異常に敏感で怖がる様子がうかがえるのは、ずっと吠えられたり唸られてきたせいなのかもしれない。スリング越しに彼を抱く腕に力をこめる。
「だいじょうぶ、すべてのものから守るから」
地面を歩くお散歩はしばらく断念。スリングに入って街を散策する「スリン歩」を彼が自ら歩きたくなるその日まで続けよう。それが1年先だって2年先だってかまわない。
マナーベルトをいつも巻いていた子犬
初めての「スリン歩」に気づかれしたのか、ソファの上でぐっすり眠る0歳11か月の白黒子犬。名はポンテ。
「さて、いよいよ明日から君に教えなきゃいけないことがあるんだよ」
――気持ちよさげに寝息を立てる彼にそうっと話しかける。
ポンちゃんは元の飼い主さん家族の暮らすビルの1Fすべてが「犬の住まい」というお金持ちっコ育ち。
そこには1匹1匹にケージが用意されてあって、1日に2度ほど自宅横に建設されたドッグランに放たれるのだけど…ポンちゃんだけはずっとマナーベルトを巻いていた。
マナーベルトをはずすと、くいっと大きくウエストがくびれているポンちゃん。彼が人間の女の子ならそれはチャームポイントになるだろう。でも、わたしは彼のくびれが少しかなしかった。
それよりもオムツとマナーバンドによる「蒸れ」が気になった。わたしは女性だからそういう蒸れの不快感を知っている。できるだけ早くマナーバンドの要らない生活を彼に過ごさせたい。それにはトイレトレーニングを教え込まなければならない。
動物病院の看護師さんから言われていた。
生後11か月まで、マナーバンドの中で自由にトイレをしていたコに教えるとなると…相当大変だと思います。短くて3か月、長くて半年から1年はかかると思って気長に教えていきましょう。焦らない・落ち込まない・急がせない! を合言葉にいきましょう。
ポンちゃんがわが家に来て4日目の朝、トレーニング開始のゴングが鳴った。