犬の里親 面談01





二次面談 選べや 求親中わんこ


里親を探している子犬の、新飼い主「第一次オーディション」は通過したわたし。

ありがたいことに飼い主さんご家族が次々と驚かれるほど、わたしは彼に多大な興味と(今のところ)わずかばかりの好意を持たれたらしい。




里親希望の心得その一 「知る」


第二次オーディションの場所は、ご家族馴染みのドッグカフェ。“彼”とわたしは初めて訪れる場所。

新型コロナ対策が徹底された店内はとてもすっきりと整頓されていて、お客様は彼とわたしと、ご家族を代表して奥様1人の完全予約制になっていた。

奥様は、ほんの少しだけ迷いを見せられたのち、彼の入ったバッグを「…こちらの方がいいですよね?」と、わたしの隣りに置かれた。

  1. いわゆる愛玩犬として、家族と衣食住をともに暮らしてはいないこと。
  2. 昨今の「犬はファミリー」ではなく、「犬は犬」「人は人」の暮らしになっていること。
  3. 自社ビル(!)の1階すべてが犬専用になっていて、人間は2階・3階に暮らしていること。
  4. ビルの隣りにドッグランをつくり(!)、日に2回、犬たちはそれぞれ1時間ほど遊んだり走り回っていること。
  5. “彼”はどのわんちゃんとも馴染めず、孤立していること。
  6. [1][2][3]の理由により、人との暮らしを知らない。
  7. 犬専用の1階では、1匹1ケージを与えており、その中で自由に排泄を行っているためトイレの躾ができていないこと。
  8. [4]の理由により、お散歩をした経験がないこと。

そして――たぶん、本当は1匹で飼われたくて、人にものすごく甘えたいのではないかと、先日ことぶきさんと触れ合うこのコを見て思ったこと。
我が家での飼い方はこのコの求める飼われ方ではなく、可哀そうなことをしていると家族で三日三晩話し合ったこと。



里親希望の心得その二 「聞く」


とても正直に誠実に話してくださっていると感じました。

本当は人間の暮らしの中に犬が当たり前にいる「犬はファミリー」な生活をしたくて、はじめの一頭目を飼ったのだけど、ご家庭の事情でそれができなくなったことや

そこから25年前後、ず~っとたくさんの犬を飼ってきて、せめて犬たちに不自由はさせたくないと家を大幅に改築しドッグランまで建設した経緯をも詳細に聞かせてくださりました。


わたし自身は「犬は犬」「人は人」「犬は番犬」でも、「犬はファミリー」でもどちらの飼い方でもいいと思っています。
肝心なのはそこではなく、最期まで愛情と責任を持って終生飼養されることに限ると思っています。
 ※犬に限らず猫ちゃんでもうさぎちゃんでももちろん同じく



里親希望の心得その三 「見る」


カフェの中に併設されたドッグランは、陽が注いで気持ちよさそう。パスタを食べるわたしの左腕にずーっと顎をのせたまま目を閉じていた彼に「どれだけお散歩が下手なのか、見せてごらんよ」と話しかけた。

「いいですか?」
「微動だにしないと思います…」

苦笑いをうかべた奥様の予想通り、踏ん張って動かない彼。なにがなんでも動いてやるもんか! という鋼の意志が見える。

犬の里親 面談 (2)



いつか、わたしがどれだけ疲れていても「ボクは散歩に行きたくて仕方ないんじゃあー!」って思える日がくるよ、きっと。

と、ハーネスリードに繋がれているのが嫌で嫌で仕方ない様子の彼にテレパシーを送る。彼がこの時のテレパシーを見事にキャッチしたのは、うちのコになってひと月が過ぎたわりと早めの頃だったのだけど、それはまた後々に…


店内にはSNS用に設置されたハロウィンブースがあり、店員さんがしきりに「写真撮影どうですか?」「写真は撮られませんか?」「インスタ用にどうですか?」と勧めてこられる。

「じゃあ記念に…」

犬の里親 面談 (3)
犬の里親 面談 (5)


カメラを見ないこと限りなし。カメラを向けられると目線を外したりしかめっ面をしていた亡き祖母が思い出された。

ああ、そうだそうだ。
この色素の薄い大きな目とへの字口はおばあちゃんに似てるんだ…。
どうりでわたしは“彼”に一目惚れしたわけね。



【悲劇】里親を辞退しなければならなくなる


ぴくりとも動かない、カメラを一向に見ない。小さな岩と化した、動かざる彼とのデートにも終わりの時間がやってきて、第三次オーディションは「わたしの家」で行うことを約束して帰路についた。

帰り道、わたしは彼の名前を決めた。
候補はいくつも思い浮かばず、この一択だった。

天国にいるであろうトトちゃんや亡き祖母が、おそらく、繋いでくれたこのちょっぴり不思議な縁。
いろんな人たち、いろんなわんちゃんたち、過去と未来と今との
架け橋になってほしい。

イタリア語で「ponte」。
意味はそのまま「架け橋」。


ポンテが正式名称だけどきっと、ポンちゃんとかポン太郎なんて呼ぶんだろう。
叱る時は「ポンッ!!!」って声を張り上げるかもしれないなー。

頭の中では、すっかりうちのコ。
4匹でおそろいの服を着て、仲良く寝そべる。
イメージは完全に出来上がっていた。



第三次オーディションの日が待ち遠しくて待ち遠しくて仕方がなかった。
老犬3匹の反応も見たかったし、うちのコたちと対面する“彼、ポンちゃん”の挙動不審っぷりを想像するだけで頬がゆるゆるに緩んだ。

この時はまさか、彼を迎え入れられなくなるかもしれないことが「わたしのからだの中に起こっている」とは予想だにしなかった。

緩みきっていたわたしの頬は急降下で谷底に落ちて、引きつった。

里親になるため、新入犬・保護犬を迎えるための準備の一環として予約を入れていた婦人科検診で、右の卵巣に異変が見られるなんて…そんなの…そんなの…なにかの間違いでしょう?



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