愛犬の喘息みたいな咳
喘息っぽい咳が(動画の咳はぜんぜんまし。普段はもっと激しい)1週間ほど続いていて、
— ことぶき│superbetterdogs.owner (@SBD_KOTOBUKI) February 8, 2022
これまでの経験からいろいろと試したけれど、お互いにかなり寝不足なのでさすがに病院へ。
がんばれって言いたくないな。咳がつらそうでもうがんばらせたくない。1年数ヶ月頑張ってきたもんな…🥲 pic.twitter.com/xeGi1H20FL
2022年1月の終わりくらいから、ぴーちゃんの「咳の質」が変わってきたような気がしていた。
14歳のちわわの老犬ぴーちゃんと飼い主のわたしは、2020年の11月以降『化学物質過敏症』と戦ってきたいわゆる同志。
今では彼女の咳やくしゃみを聞くだけで「これは埃からくる咳」「今日はPM2.5が強め」「ちょっと乾燥してきたものね」「午後から雨が降るのかな」と分かるほどになっていた。
だから「――咳が違う」と気づいたのだと思う。
でも1年数か月の経験上、この咳も化学物質過敏症のうちのひとつだろうと数日間は様子を見ていた。けれどその咳が、遠い昔の記憶を呼び起こした。
喘息のクラスメイトのぜいぜいした咳と合わせて聞こえる「ひゅうう」という後を引くような音。いわゆる『喘鳴』というものに近いように思えた。こんな咳はこれまでに聞いたことがない。
愛犬の止まらない咳
そうこうしているうちにぴーちゃんの咳は、1日中続くようになった。彼女自身も飼い主のわたしも丸2日、ほとんど眠れなくて神経が逆立っていた。
もちろん彼女のためになにもせず、ただ見守っていただけではない。化学物質過敏症と1年数か月戦ってきた経験から、
- 「室温や湿度をかえたり」
- 「模様替えをして空気の出入り口をかえたり」
- 「表に出ている布製品をすべて洗い直して乾燥機にかけたり」
- その他
思いつくものはすべてやり尽くして、それでも症状が変わらないどころか処方されている薬「ダンプロン+シロップ」を飲んでも「ステロイド剤のプレドニン」を飲んでもまったく効かない。
それどこか咳は悪化さえしているように思えたので、いよいよ動物病院へ向かった。
気管虚脱(きかんきょだつ)という診断
彼女の咳と「ひゅうう」を録画した3本の動画を見ると先生は「レントゲンを撮りましょうか、一発で病名が分かります」と仰った。
待合室にいるあいだ、ぴーちゃんはわたしの腕の中にいた。その間、咳も「ひゅうう」もぴたりと止まっていた。
ぴーちゃんのレントゲンが映されたモニターの前に立つよう案内されると先生は、20分前と比べるとすこし渋い表情を浮かべていた。
「――気管虚脱ですね」
「きかんきょだつ?」
犬の気管虚脱とは?
気管虚脱(きかんきょだつ)気管虚脱は、空気の通り道である気管が途中で潰れてしまい、呼吸ができなくなってしまう病気です。ヨークシャーテリア、ポメラニアン、チワワ、そしてトイ・プードルなどの小型犬でよく見られますが、ラブラドールレトリバーや柴犬などにも多く、それ以外の犬種でもみられる病気です。症状としては、軽い咳から始まり、嘔吐をするような動作や「ゼーゼー」とした呼吸音、末期ではチアノーゼや呼吸困難も現れます。
初期の症状では、喉に何か詰まったような咳(空咳)や、水を飲んだ時にむせるような仕草などが特徴的です。ですから、咳と気づかないことが多い。

愛犬の気管虚脱と安楽死の選択
待合室で会計を済ませるまでのあいだ、スマホで検索をした。
「外科手術をしなければ、気管が潰れて呼吸困難に陥る死に向かっていくだけの病気」と書かれた一文が目にとまった。
先生はそんな風には仰らなかったけれど「気管虚脱ですね」と言った時の表情は、言わなきゃいけないことを飲みこんだように見えなくもなかった。
14歳のぴーちゃんはこの2年、化学物質過敏症いがいにいくつもの手術や治療を受けてきた。
- 『角膜潰瘍・角膜の外傷・解離性角膜炎』
- 『マイボーム腺機能不全』
- 『歯周病の悪化による外歯瘻(がいしろう)』
- 『歯周病治療およびスケーリング・抜歯手術』
- 『左右それぞれの鼠径ヘルニア』
ドーナツ型のエリザベスカラーに首を通したぴーちゃんの写真が、2020年以降一気に増えた。だからもう、痛い思いや不便な思いはさせたくない。もう十分すぎるほど彼女はがんばってきたから、もう頑張らせたくない。
ぴーちゃんの咳が1日中やむことなく続いた2日間、「安楽死」が何度も頭をよぎった。この苦しそうな咳を止めてあげられる選択ができるのは飼い主であるわたしだけだ。
1年数か月、化学物質過敏症に苦しい呼吸を強いられてきた彼女に最後にかけてあげられる愛情があるとしたらそれは、安楽死を選ぶことかもしれないと2日間悩みました――。
そのことを告げると先生は「一度はその覚悟をしたのなら……」と、外科手術ではなくモルヒネを使った対症療法を提案してくださった。
麻酔薬「オピオイド」を投与する対症療法の提案
「オピオイドという、簡単に言うと“麻酔薬”のようなものを服用して緊張した状態が続いている気管をゆるめます。麻酔薬なので治す薬ではありませんが、咳が緩和される症例は多いです」
というような説明を受けたような気がする。レントゲンに映る、素人のわたしにも分かる「気管の変化」にショックを受けていて、記憶が正直あいまいになっている。
去年の10月に「健康診断の一環として」撮ったレントゲンからたった3ヶ月やそこらで彼女の気管はわたしの目が見ても明らかに痩せていた。こんなにも進行がはやいなんて……。
まずはその「オピオイド」という本来は麻酔に使うお薬を取り寄せていただくところから始まる。お試しで数日間それを服用して、様子を見ていく。どうか薬が効いてほしい。治らなくてもいいから、苦しまずに寿命をまっとうさせたい。その願いだけでいいから叶えてください。
延命のためだけの治療ならしない。
気管虚脱の外科手術はうけない。
彼女にはもうがんばらせたくない。
だけどわたしにできる最善は力の限り尽くす。
胸にそう誓ったけれど、動物病院を出た瞬間に見慣れた街が歪んで見えた。